狂気のサクラ
私を不幸の渦に突き落としたあの男への制裁に、一切手を汚すことはなかった。私はやっと長い迷路から抜け出す事が出来たのだ。
嘆き、そんなものはない。上手くいかない恋をして傷付き優しさを覚えるのだといつか人気女優がテレビで言っていた。
それは幻想だ。
深く深く抉られすぎた傷は塞がることなどなく、心的な外傷となり病み続ける。
こんな経験は先の人生に影を落とすだけだ。少しも必要なかったのだ。
憎いだろう私に一度も矛先を向けることのなかった今井の感情は、すべて彼へ向けられた。悲しい独占欲なのか、増悪だけに駆られたのだろうか。恨みは愛しさよりもずっと根が深い。
法で裁くことのできない彼からの仕打ちで深く抉られた今井の傷はこの先も塞がることなく痛み続けるのだろう。
今井の嗚咽を聞きながら、ふと頬に違和を覚えた。
指で頬に触れる。
自分でも気付かない間に大粒の涙が頬を伝っていた。
この涙の意味も分からないけれど、これだけは分かる。
騙される方が悪いなど完全に間違えた正論だ。
私も今井も幸せだったはずた。あんな男に関わらなければ。
あの日桜の木の下で、春の光と花びらを浴びていた彼女が、息を呑むほど目映かったのを思い出さずにはいられない。
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