今日は我慢しない。
 かたまる俺に、母さんはにっこりと胡散臭い笑みを向ける。


「あら? 違ったかしら。花火大会の日、16時半に駅前でって連絡とってたわよね」


【花火大会の日、16時半に駅前で】

 
 こないだ、逃走中イベント終わった後に俺が三条に送ったメッセージ。

 母さんにそう伝えた記憶も、メッセージを見せた記憶も当然ない。

 スマホにはパスワードをかけてるはずだし、常に持ち歩いてる。

 母さんが勝手に監視アプリを入れてないかも逐一チェックしてた。

 それなのに、なんで――

 と、そこで思い出す。

 父さんの会社の傘下にセキュリティーシステム関連の会社があることに。

 母さんはよく父さんについてパーティーに参加し人脈を拡げていて、傘下の会社の伝手だっていくらでもある。


「まさか……犯罪みたいなことしてないよな……?」


 自分で言いながら信じられなくて、声が震えた。

 母さんは顔色ひとつ変えず、やっぱりニコニコと笑っている。

 その笑顔が異様に怖くて、背筋がぞくりと冷えた。


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