今日は我慢しない。
 我ながら情緒がおかしいけれど、それぐらい佐柳の気まずそうな顔は私のメンタルに大打撃を与えた。

 佐柳の気持ちはわからないでもない。

 私だって誰かに『あなたに発情しました』なんて言われたら、きっと困る。

 でも、佐柳なら。

 そんな私も受け入れてくれるんじゃないかって思ってしまった。

 普通に考えたらそんなわけないのに。

 ……あぁ、もう、これ以上考えても仕方がない。

 この件は忘れよう。

 あれ以来佐柳も腹立たしいほどに特に変わりなく、生徒会をやっているし。

 私もなかったことにして、普通に接しないと。

 首を左右に振って雑念を振り払い、立ち上がって本来やるべきポスター貼りの作業を始めることにした。

 右手にポスター、左手に画鋲を取ると、脚立に二段ほど登ってからポスターを拡げて右腕を使って押さえ、左手の画鋲を押し込んだ。


「っ……、あれれ」


 この掲示板、結構硬い。

 画鋲が入らない。


「く……ぅ」


 この前出場した柔道大会で養った右腕の筋肉痛が、ここへ来て私に軽いジャブを入れてくる。

 あの手この手で何度も力いっぱい押し込んでみるけど、なかなかうまくいかずにしまいにはゼェゼェと息を荒げた。

 ダメだ、ちょっとしか入らない……!

 これじゃすぐ画鋲が取れて落ちたりして危ない。

 私の力じゃ、つけられ、ない。

 私はガクリとうなだれた。


「はぁ……」


 情けない。

 情けないことばかりが続いてる。

 ……いやいや、こんなことで心折れてたら駄目だよ、三条那由! 頑張れ!

 そう自分を律して再トライしようと画鋲を左手にとった、そのときだった。

 ふわりと、あの匂いがした。



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