Last Flower
人を信じることが怖いことを知ったのは小3の時。
我が家に弟が生まれることになった。
嬉しいはずのこの出来事は、
元々仲がいいとは言えなかった家族が崩壊する
きっかけである事件に繋がった。
母は精神的に不安定になり、
私は父方の祖父母に預けられ
妹は母方の祖父母に預けられた。
私は、あの日から自分を閉ざすようになった。
そんな私は、幼馴染みが野球をしているところを
グラウンドの端っこで見ている時間が
何も考えなくていい幸せな時間だった。
ニコニコ笑いながら、時に真剣な顔で
白球を追う姿は輝いていた。
晴れた青空の下。
その時間は私も一緒に楽しんでいるような
気分になれた。
グラウンドをかける幼馴染みの小さな背中に
照らされる太陽の光は、光り輝いて
そして、いつも優しく、いつも強かった。
悪いこととは続くもので
本家の頭主である大叔父が亡くなり、
親戚関係が崩れていった。
母が家に嫁いだことをよく思っていない
父方の叔母は母に毎日のように
辛く当たり続けた。
叔母はそれから私の習い事や学校に
ついては一切母にやらせず、自分で
やると言い出した。
そして、それはこの後の悲劇にまで
繋がって行く。
祖父の会社の財政は傾き始め、
祖父も心臓病にかかってしまった。
なんとなく平穏に保たれていた家の空気が
日を置くごとにひきつっていた。
家の中で聞こえるのは怒鳴り声ばかり。
そして、その矛先はもちろん私にも
向けられていた。
"なんでこんな簡単な問題も解けないの"
"うちにバカは必要ないのよ"
"本当に手のかかる子よね"
"貴方がいなければよかったのに"
毎日言われる小学生にはつらすぎる
言葉の数々が繊細な心に刺さった。
1番大好きなはずの家族からの愛情が
薄れていくこの感覚は人を信じなくなるに
十分だった。
小4の春。
ひょんなことで友達がいじめられているのを
見つけた私は、相手が誰だか知らずに
止めに入った。当たり前だ、友達だから。
しかし、私が喧嘩を売ってしまったその相手は
地元でも有名なヤンキーの先輩だった。
それからというもの、マンガの中か?
と疑いたくなるような陰湿な嫌がらせを受けた。
私は嫌になって学校をサボるようになった。
サボるたびに家にかかってくる電話。
ほんとに家族からしたら気が気ではない。
そして、家族が出した答えは
私立の中学に行かせるという選択肢。
家族の気持ちがわからないわけではない。
そんな不安から解放してあげたいー
そう思ってくれたのかもしれない。
けれど、それは私にとって逆効果だった。
"生粋の長女は貴方しかいないのよ"
少々複雑な家元に生まれた私は、
なぜかいつもそう言われていた。
私には自由なんてなかった。
茶道、日本舞踊。
発作がひどい私でもできる習い事を
探して来たのだろう。
一家的には、剣道一家なはずなのだから。
小さな頃から歌うのが好きな私に
母が習わせたのは手話ミュージカル。
けれど、その歌も勉強の邪魔だと言い
叔母が一方的に辞めさせた。
極め付けに小4の冬、私の習っていた
日本舞踊の花柳流の先生は自殺してしまった。