神に選ばれなかった者達 前編
その押し入れはパパの書斎の押し入れと違って、まったく整理されていなくて、雑多に物が詰め込まれていた。

家の中で一番広い押し入れではあったが、所詮は押し入れ。

子供とはいえ、人間が入るスペースなどない。

おまけに、この押し入れには明かりがない為、扉を閉めると真っ暗闇だった。

自分の目の前も見えず、何処に何があるのか分からない。

前も後ろも、ともすれば上も下も分からなくなるような、漆黒の闇。

おまけに、押し入れの中は立ち上がることも出来ず、少し身体を動かすだけで、何かに腕や足をぶつける始末。

当然窓もないし、懐中電灯やろうそくもない。

暗さと狭さ、そして息苦しさで、閉所恐怖症になりそうだった。

とてもじゃないが、人が寝られる環境じゃない。

横になるどころか、足を伸ばして座るスペースさえなかった。

これまで大家族で暮らしてきたほたるは、部屋の中に一人でいる、という経験がなかった。

あまりの恐怖にパニックになったほたるは、必死にどんどんと扉を叩いた。

「開けて…。ここを開けて!助けて!」

こんなところに一晩中閉じ込められる。そう思っただけで、恐ろしくて震えが止まらなかった。

しかしどれだけ呼んでも、どれだけ叫んでも、南京錠を開けてくれる人はいなかった。

代わりにパパが、ガン!!と押し入れの扉を叩いて怒鳴った。

「黙れ!!」

その一言に、ほたるはびくっとして、それ以上何も出来なかった。

ぶるぶると震えている間に夜が来て、家族は寝静まったようだった。

まさか、本当にこんなところに、一晩中放置されるんだろうか?

恐怖のあまり、ほたるは歯をガチガチと鳴らしていた。

まさか。そんなはずない。いくらパパとママでも、そんな酷いこと…。

きっと反省したら、出してもらえるはずだ。こんなところに置き去りにするはずがない。

きっと今に出してくれる。反省すればきっと。必ず…。

でも心の中で、誰も助けになんか来てくれないことは分かっていた。

その日の夜を一体どんな風に過ごしたのか、ほたるはもう覚えていない。

一晩中、一睡も出来なかったのは確かである。

翌朝、ようやく南京錠が開けられた時には。

押し入れの中には、ほたるが恐怖のあまり吐き出した嘔吐物が撒き散らされ。

ほたる自身も、涙と鼻水と涎で顔をぐちゃぐちゃにして、見るも無惨な有り様だったのは言うまでもない。

そして翌日からも、ほたるの寝場所はそこだった。

毎晩のように、狭い暗闇の中に閉じ込められる恐怖。

この凄まじい恐怖が、次第に、ほたるの正気を失わせ。

段々と…耐えられなくなる原因を作っていったのだろう。
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