神に選ばれなかった者達 前編
「やめてくれ…。俺は敵じゃない…」

「えっ…えっ…?」

…ようやく、彼女は椅子を振り下ろすのをやめた。

そして、まるで初めて人間を見つけたかのようにこちらを見つめる。

…何だ。俺はバケモノじゃないぞ。

「…落ち着いたか?」

「な…。に、人間…?ゾンビじゃないの…?」

「あぁ…。俺はゾンビじゃない。人間だ」

「…」

女子生徒は、相変わらず信じられたいみたいな顔をしていた。

「何でここに…。人間が…。ゾンビしかいないと思ってたのに…」

「何でここに人間が」か。

それはこっちの台詞だ。

屋上なら誰もいないと思ったのに。何でここに人間がいるんだ。

それに、何より。

「…誰なんだ?お前は」

「えっ…?」

悪夢を見るようになって、しばらく経つが。

目の前にいる、この女子生徒に遭遇したのは初めてだった。

「お前も、『処刑場』の仲間なのか…?」

掲示板には、この少女らしき名前は見つからなかったが。

しかし。

「えっ…。しょ、処刑場って…?何のこと?あなた、誰なの…?」

「…」

…どうやら、何も知らないらしい。

それじゃあ…もしかして…。

「生贄になったのか…?お前も…?」

「…生贄って何のこと?私が毎晩、この酷い悪夢を見るようになったことと、何か関係があるの?あなた、何か知ってるの!?」

死に物狂いといった様子で、彼女は俺に迫ってきた。

その拍子にガシッ、と両肩を掴まれ、さっきしたたかに殴りつけられた左肩がズキッと傷んだ。

「いっ…!」

「あ、ご、ごめんっ…」

そっち、折れてるんだ。触らないでくれ。

ゾンビに食い殺されるよりはマシだが、痛いものは痛い。

「私、ゾンビかと思っちゃって…。また殺されると思って、つい…」

俺をゾンビと勘違いしたのか?

…ゾンビに間違われるとは…。何だか傷つくが。

「いつもなら…いつも屋上で、ゾンビに殺されるの…。痛くて、怖くて…何とか逃げなきゃって…」

「…」

と、彼女は半ばべそをかきながら教えてくれた。

「いつも、屋上には何もないの。でも…今夜は何でか分からないけど、そこに…机と、椅子があって…」

彼女は、屋上に無造作に転がった生徒用の机と。

それから、さっき俺をゾンビと間違えて殴りつけた、血まみれ、粘液まみれの椅子を指差した。

「たまらず…あれで、ゾンビを殴って殺したの…。…怖かった。本当に怖かった…」

「…」

よく見たら、彼女の向こうに。

頭を何度も殴られて、潰されたゾンビの残骸が転がっていた。

…成程。あのゾンビを…この少女が殺したのか。
< 178 / 431 >

この作品をシェア

pagetop