神に選ばれなかった者達 前編
今のが、2回目の死。

それでも、僕の悪夢は終わらない。

僕と…のぞみの、悪夢は。

「…はっ…!」

二度目に意識が途切れた、その一瞬後。

またしても、僕は同じスラム街に立っていた。

咄嗟に右腕を見たが、やはり、元通りにくっついていた。

…まただ…。また、戻って…。

…と、いうことは。

思わず振り向くと、唸りをあげる人面犬達がこちらを見ていた。

…まさか、これを永遠に繰り返すっていうのか?

冗談じゃない。

何度も何度も、餌にされてたまるものか。

僕は逃げ出した。

三十六計逃げるに如かずと言うが、あれは本当だ。

これまでも僕は、ずっとそうしてきた。

僕とのぞみを苦しめる怖いもの、恐ろしいものから、ずっと逃げてきた。

まだ子供に過ぎない僕達に出来ることは、逃げることだけだった。

人面犬達に背を向け、僕は走り出した。全速力で。

僕は学校に行っていないから、頭は悪いが。

こう見えて、足だけは速い。

逃げ足だけは速いのだ。…昔から、鍛えているから。

これまでも何度も、道行く人から財布を引ったくったり、道端で売られている食物を引ったくっては、走って逃げた。

だけど、いくら猿のようにすばしっこくても、僕は所詮子供だった。

逃げようとしても、何度も捕まった。

捕まって、大人達に痛めつけられる度に、思ったものだ。

今度こそは、誰にも追いつけないくらい速く走ろうって。

そうやって鍛えた脚力が今、物を言う…。

…はず、だったのだが。

顔だけは人間のものでも、バケモノ達は犬だった。

犬と人間、どちらが速いかなんて、比べるまでもなかった。

僕が走り抜けた距離を、ほんの数歩で詰め。

バケモノ達は、僕の身体に噛みついてきた。

今度は足だった。

足首から先に、バクッと食いつかれた。

そのまま、僕は足がもつれて転倒した。

凄まじい痛みに悲鳴を上げ、震えながら自分の足を見る。

足首から先が、綺麗になくなっていた。

人面犬がグロテスクな音を立てながら、僕の足を咀嚼する姿が見えた。

あぁ…くそっ…。

この足じゃ、もう逃げることは出来ない。

人面犬相手に、足で勝負しようなんて愚かな考えだった。

死の間際まで、痛みと共に、そのことを嫌と言うほど思い知らされた。
< 230 / 431 >

この作品をシェア

pagetop