神に選ばれなかった者達 前編
眞沙が部屋から立ち去った後。

しばし躊躇ったが、それでも俺は、ベッドから立ち上がった。

何とかしなければ、何ともならないのだ。

久し振りに私服に着替えて、部屋から出た。

…この時点では、まだ大丈夫。

問題は、玄関の扉を開けた瞬間だった。

外気に触れた途端に、ジジジ、と視界にノイズが走った。

黒いモヤがかかって、そのモヤがこちらに向かって襲いかかってくるような。

思わず顔を背け、下を向いたが。

だが、ここで逃げ帰る訳にはいかなかった。

そうっと、恐る恐る、ゆっくりと顔を上げた。

今度は、ノイズは走らなかった。

…良かった。行けそうだ。

ここは現実なんだから。夢じゃないんだから。

自分にそう言い聞かせながら、俺が向かったのは、近所にある内科医院。

いつも、風邪を引いた時や、インフルエンザの予防接種を受ける時に来ている、小さな病院。

他にどんな病院に行けば良いのか、分からなかった。

受付で「今日はどうされました?」と聞かれて、思わず返答に窮した。

果たして、悪夢ですと答えて理解してもらえるのだろうか。

ひとまず、「ちょっと体調が悪くて…」と誤魔化した。

病院に来てるんだから、体調が悪いのは当然なんだが。

ようやく順番が来て、診察室に入って。

「風邪でも引いたのか」と聞く医師に、俺は素直に打ち明けた。

およそ10日くらい前から見るようになった、あの悪夢のことを。

てっきりただの風邪だと思っていたらしい医者は、しばらくポカンとして俺の話を聞いていた。

…頭でもおかしくなったのか、と言いたそうな顔だったが。

あながち間違いだとは言えないのが辛い。

もしかしたら、俺は本当に頭がおかしくなっているのかもしれない。

一通り俺の話を聞いた内科医は、困ったような顔をして。

「はぁ…成程、そうですか…。…それは困りましたねぇ…」

この気のない返事。

仮にも患者の訴えを聞いて、そんなどうでも良さそうな返事をするなんてあんまりじゃないか。

元気な時だったら、そう言っていただろうが。

今の俺は、ろくに返事も出来なかった。

やっぱりそうなのか、と思っただけだ。

やっぱり、俺がおかしいのか、と。

「そういうのは、ウチではちょっと…どうしようも出来ませんね」

挙げ句、これ以上の診察を拒否された。

そんな…。じゃあ俺にどうしろと?

「よその病院の紹介状書いておきますから、それ持って行ってください」

「よそ…。って、何処に…?」

「そういう精神的な症状を診てもらえる病院ですよ」

と、内科医は言葉を濁して説明してくれたが。

後になって受付で渡された紹介状を見ると。

紹介されていた病院は、○○メンタルクリニック、という病院だった。
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