彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「そんなことありません」

「冗談だよ、佳穂……」

 先生は私を後ろから抱きしめていたが、私の顎を捉えて顔を上に向けさせた。目が合った。私は近づいてくる先生の顔を見ていられず目を閉じた。すると、唇に温かい感触がした。

 一度離れた感触は一瞬で、すぐに先生のキスは強くなった。

「あ……ん……ん……」

 深くなっていくキスが止まらない。

 トゥルル……♪

 電話が入った。二人でハッと身体を離す。二人で一緒に受話器を取ろうとしてしまい、先につかんだ私の手の上に先生が手を乗せた。大きな温かい手に包まれてドキドキした。ふたりでパッと手を放してしまった。顔を見合わせ、私が譲ると先生が電話に出た。まだ、心臓がばくばくする。

「はい、弁護士の黒羽です。ああ、お世話になっております。ええ……はい……」

 私は逃げるように先生の部屋を出た。唇を両手で抑えた。ファーストキスだった。

 * * *

 とうとう先生が出張に出る前日となった。

「皆、明日から僕は出張になるが、後のことはよろしく頼む」

「了解です」

「婚約者を諒介先生に預けてしまって大丈夫なんですか?」

 いたずらっ子のように佐々木さんが目を輝かせて先生に聞いた。

「君たちがよく見張っていてくれ」

「一緒にいないから見張れません」

「その通りです」

 佐々木さんと池田さんは頷いて笑っている。
< 78 / 140 >

この作品をシェア

pagetop