先生の金魚
あんなに動転していたくせにお弁当を食べる頃にはサヨちゃんはケロッとしていた。

お母さんが作ってくれたのかきれいなレモン色の出汁巻きたまごをおいしそうに頬張っている。

メグは食べ慣れすぎてもはや味のしない苺ジャムパンを齧った。

「もう平気なの?」

「ん?」

「金魚」

「あ…、ううん。平気なわけじゃないんだけどね。あの子はあの子だけだったし。でもね」

言いながらサヨちゃんがスマホの画面をメグに向けた。

トークアプリでのやり取りだった。

″ナツくん″

後ろ姿の男性のアイコン。
せんせーとのトーク履歴。

「金魚、買ってくれるんだ」

「そう。やっぱりすごく落ち込んじゃって、休み時間にね。相談しちゃったの。夏まではもう少し時間があるから購入したのでもよかったらまた買ってくれるって」

「へぇ」

「内緒だよ?」

「内緒って?」

「これ」

スマホを振って見せるサヨちゃんには優越感が見えた。

どんなに推しだの恋だの叫んだって親族としての特権には勝てない。

どんなに僅かだってサヨちゃんとせんせーの中にはおんなじ血が流れている。

まったく別の、どことも結びつかないメグの血液が沸騰していくみたいに頭の先からつま先までジリジリと痛んだ。

「もー自慢しないでよ」

「えへへ。ごめんね」

うれしそうなサヨちゃん。

吐き気がする。

「ごめんちょっと」

「どうしたの?」

「トイレ行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」
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