【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
第1章
五月の風が、白い花びらをさらっていく今日この頃。
縁側に腰を下ろした英紗心彩は庭の牡丹がひとひら、またひとひらと散っていく様子をただ静かに見つめていた。
音のない世界で、彼女はいつもそうやって花を見る。風の流れを、光の角度を、花びらの落ちる速度を。耳で感じられないぶん、目と鼻と皮膚で世界を読み取るように、幼い頃から自然と身につけた習慣だった。
牡丹の香りが鼻をくすぐる。甘く、濃く、少しだけ青みがかった草の匂いが混じる。この季節だけの、特別な香りだ。
心彩は目を細めた。
障子が開いた気配がして、心彩は振り返った。廊下に立っているのは、母の英紗律子だった。
品のある薄紫の着物を纏い、口元に柔らかな笑みを浮かべているが、その目が笑っていないことに、心彩はすぐ気づいた。
母は唇を動かして心彩は口の形や動きから言葉を読み取る。
「お父様がお呼びよ」
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