🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
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「奥さんはモルドバにいらっしゃるようです」

「モルドバ?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
 まったく予想していなかった地名だったからだ。

「なんでモルドバなんかに」

「それはわかりません。しかし、張り込みによってアイラがウクライナ支援団体と接触していることがわかりました。その主なルートがモルドバなのです」

 ウクライナと隣接するモルドバはイスタンブールから地続きで行ける小国で、ウクライナの南部や東部に最も近い国なのだという。

「でも、ここからだとルーマニアの方が近いのではありませんか?」

「そうですが、例えば、ウクライナ南部の要衝(ようしょう)オデーサまではかなりの距離があります。それに比べてモルドバは遥かに近いのです」

「というと、妻はオデーサに行っている可能性もあるのですか?」

「それはまだわかりません。あるともないとも言えません」

「盗聴で地名は確認できないのですか?」

「残念ながら」

「それって警戒されているということですか?」

「そうかも知れません。彼女はヘッドハンティングのプロであると共にITにもすこぶる強いようですから、セキュリティーに対する警戒は並大抵ではないのかもしれません」

「そうですか……」

 思わず消沈の声が出た。
 帰国までの時間が残り少なくなってきた倭生那にとって、未だに妻の居場所が掴めない現状は憂い以外の何物でもなかった。

「とにかく、全力を尽くしていますので、もう少しお待ちください」

 そこで通話が切れた。
 倭生那はスマホを置いたが、なんとも言えない重苦しさがいつまでも纏わりついて離れなかった。


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