🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
 それはそうと、モルドバに来るとは思っていなかった。
 モスクワへ行くつもりだったからだ。
 戦勝記念日にプーチンが何を言い、どれほどの規模のパレードが行われ、集まった国民がどういう反応をするのか、この目で確認したかったのだ。
 でも、アイラから強く反対された。変なことをするのではないかと危惧したようで、何度も止められた。

 彼女の感は当たっていた。というより、ズバリだった。赤の広場で反戦の意思を示すつもりだったのだ。
 ロシア国営テレビのスタッフがやったように、『ウクライナ侵略を止めよ!』『プーチンを引きずりおろせ!』『プロパガンダを信じるな!』『全員で声を上げよう!』と大きな紙に書いて中継テレビの前に立とうと考えていたのだ。

 しかし、それを見透かしたようなアイラの説得に負けて行くのを思いとどまった。
 その代わり、彼女が参加しているボランティア団体を手伝って欲しいという提案に乗ることにした。
 それはモルドバでの避難民支援だった。大混乱になっている現場に手を貸すことを求められたのだ。
 その時に、「ロシアを非難することよりもウクライナを助ける方がはるかに価値がある」と強い調子で言われたことに衝撃を受けた。 正に目から鱗が落ちたような感じだった。

 確かに、モスクワに行ったとしてもプーチンに近づくこともできない自分が審判を下せるわけがない。自己満足を行使するだけで終わってしまう可能性が高いのだ。
 あの国営テレビのスタッフが命がけでやったことでさえロシア国内で大きな影響を与えることはできなかったのだから、自分がやったとしても、ただ捕まって終わってしまうだけだろう。
 それよりも、苦しんでいる人たちを助ける方が現実的であり、何倍も価値がある。
 そう気持ちを切り替えると、モルドバへ行くのが自分の使命だと思えてきた。
 だから、すぐに心を決めた。

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