🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
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 彼女は『マルーシャ』だと名乗り、穀物を扱う会社で輸出業務をしていると言った。
 しかし、ロシア軍に黒海を封鎖されてすべての業務が止まってしまい、会社が大変な状況になっていると嘆いた。

「奴らのせいでトウモロコシも小麦も動かせなくなったの」

 倉庫は出荷待ちの農作物で溢れかえっているという。

「このままの状態が続いたら大変なことになってしまう」

 自分の職も心配だが、それ以上に世界に与える影響を心配しているという。

「特にアフリカが心配なの」

 ただでさえ新型コロナウイルスの影響で食糧入手に苦労している状況なのに、ウクライナが輸出できないことで更に入手困難になるのは間違いないという。
 その上、価格が高騰して経済的弱者を圧迫することになるのだそうだ。

「1日に1食も食べられない人が増える可能性があるの。そうなると栄養不良や栄養失調に陥る人が増えてしまうわ」

 その結果、何百万という人の生命が危機に陥る可能性があるのだという。
 更に、暴動が起こる可能性もあり、政情不安につながることも否定できないという。

「早く終わらせなくてはいけないの。この戦争を一刻も早く終わらせなくてはいけないの」

 長引けば長引くほど影響は大きくなり、取り返しがつかない状態に陥る可能性が高いという。

「種蒔きができなくなったら来年の刈り取りもできなくなるのよ。そうなると更に深刻な状況になるわ」

 最悪の場合、輸出ができない状態が数年に渡って続く可能性があるというのだ。
 今は各国が備蓄で(しの)いでいるが、それが底を突けば大変なことになるという。
 正に食糧危機が迫っているのだ。

「だから、できることを今やらなければいけないの。躊躇(ちゅうちょ)している暇はないの」

 深刻な表情になった彼女はスマホを取り出して操作を始めた。

 見るように言われたので(のぞ)くと、SNSの画面が表示されていた。
 そこには彼女が発信したいくつものメッセージがあった。
 すべてオデーサの惨状を訴えたものだった。

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