🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
        オデーサ

        1

「一旦モルドバへ引き上げよう」

 オデーサでボランティアを率いるリーダーは、移動する準備を始めるように指示を出した。
 連日のようにミサイルとドローンが飛んできてインフラや集合住宅が攻撃されているので、待ったなしの状態になっているのだ。

「ここにいたらいつミサイルが飛んでくるかわからない。ぐずぐずしている場合ではないんだ」

 強く促されたが、オデーサを離れるつもりはなかった。

「死ぬかもしれないんだぞ。そんなことになったらどうするんだ」

 身の安全を確保するのが最優先だと説得されたが、それでもナターシャの気持ちが変わることはなかった。
 オデーサの人たちと共に戦う覚悟ができていたのだ。
 それは骨を埋める覚悟と言い換えることができるものだったが、簡単に死ぬつもりはなかった。
 大義も正義もないロシア軍のへなちょこミサイルやドローンが自分を殺せるわけはないと固く信じていたからだ。

「最後は正しいものが勝つの」

 頻繁に連絡を取り合っているマルーシャが毎日のように発する言葉が心の支えになっていた。
 それに、反転攻勢を続けるウクライナ軍の勇敢な姿に力を貰っていた。
 オデーサ市民の士気の高さにも鼓舞(こぶ)されていた。
 だから、ここを離れるという選択肢はあり得なかった。

「大丈夫です。皆さんが戻ってくる日までここを守っています」

 笑みを浮かべてリーダーに告げると、倉庫の中に入っていつものように支援品の整理に取り掛かった。

< 73 / 102 >

この作品をシェア

pagetop