🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
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「えっ? オデーサに残る?」

 倭生那はナターシャの言っていることが理解できなかった。
 クリミア大橋を破壊されたことへの報復が続く中、とどまり続けるというのはあり得ないことだった。

「いや、だめだ、それは」

 余りにも危険すぎると警告したが、「大丈夫よ。何も問題ないわ」と平気な声が返ってきた。

「いや、だめだ。頼むからモルドバに戻ってくれ」

「もう無理なの。みんな行ってしまったから」

 ボランティアのメンバーが全員引き上げたので、乗せてもらえる車はないのだという。

「なんで一緒に」

 言いかけたところで遮られた。

「充電ができなくなる可能性があるからもう切るわね」

「ちょっと」

 待って、と言う間もなく通話が切れた。

 すぐにかけなおそうとしたが、指が止まった。
 オデーサは電力インフラが攻撃されているのだ。
 いつ停電になってもおかしくない状況なのだ。
 そんな中でスマホの使用を制限するのは当たり前だろう。
 もし停電になれば明かりとしても使わなければならないのだから、無駄遣いなんてできるはずがない。
 しかし、連絡が取れないということはナターシャの安否確認が難しくなるということでもある。

 それはダメだ。
 絶対にダメだ。

 スマホをテーブルに置いた倭生那はなんの躊躇いもなくすべきことを決めた。
 それは、人生を大きく変えることになる決断だった。
 
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