偽装カップルの練習
そして、考えた末、土曜日に彼をカラオケに誘った。
「おはよう」
「うん、おはよう」
気まずそうな顔で入ってくる仁志君。そんな彼に対し、「何歌う?」と、まるで何も中tぅたように、私は話しかける。もちろんここに呼んだ理由は、この前の剣だが、それを切り出すタイミングは少なくとも今ではない。もっと後のタイミングだ。
そして数曲歌って、タイミングを見計らう。
そして、互いに一通り歌った後、
「この前の件だけど」
ついにあの言葉を切り出した。それを聞いて仁志君がつばを飲み込んだ。
「私、キスのことは謝ってくれたからもういいです。そうじゃなかったらもうここにはいないし。で、これからの話だけど、私は瀬川君と付き合ってもいいと思っています。別にキスのことだけだし、元々は嫌いじゃないし。でも、お願いだからキスは互いの合意がある時にして」
数日考えた結果、私はキスが嫌なわけじゃなかったんだと気が付いた。そう、私は急にされたから混乱しただけだった。
あの時は自分の気持ちに整理がつかなかったけど。
「う、うん」
「ちなみに私はあの時のキスは全然よくは思わなかったって言うか、っ恥ずかしかった。だから、もしキスするのなら、今度ちゃんとしたときにしよ。でも、付き合うにしろ、たぶん暫くは気まずい空気が続くだろうけど」
そう言って微笑んでみると、仁志君も少しだけ「ふふ」と言った。
結局気まずさは変わらなかったけど、その日は二人で歌った。


