偽装カップルの練習

 月曜日、瀬川君は私の前に現れた。どのずら下げて現れてるんだって怒鳴りだかった。

 だけど、私が怒鳴る前に、

「ごめん。大江さんが怒鳴るのもよくわかっている。流石にやりすぎた。でも、一ついいかな」
「なに?」
「僕は大江さんのことが好きなんだ。だから、キスしてしまった。許される行為ではないよね。僕は偽装彼女を言い訳にして、その立場を私物化していた。こんなことなら最初から告白しておけばよかった。でも、僕には告白する勇気なんてなかったんだ。告白して振られるのが怖くて、あんな提案をした。僕のこと殴ってもいいよ」
「っ」

 何も言えない。確かにいきなりのキスは許される行為ではない。でも、それが好きという気持ちが暴走してしたキスだとしたら?
 私には分からない。何もかも分からない。私は何と返したらいいのだろう。このまま許して偽装じゃなく本当に付き合うべきなのか、もういっそこのまま怒って疎遠になったら良いのか。

 とりあえず。

「ごめんね」そう言ってはたく。「考えさせて」

 はたいたのはもちろん気持ちの整理をするためだ。後々どうなるとしても、やっぱり許可なくのキスは許されないことなのだ。そこから数日気まずい空気が流れる。
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