騙すなら墓場まで



 よりによって、彼にすがるなんて浅ましいにもほどがある。

 伊月さんがいくら優しいからって、このまま迷惑をかけ続けてはいけない。

 私は手を見た。ひびやあかぎれはすっかり消えて、近くで見ると治った跡がわかるくらいには回復している。


 全て、伊月さんの優しさの賜物だ。


 ベッドまで運んでくれたのも、私が作ったカレーを食べようとしてくれたのも、お弁当を受け取ってくれたのも。


 全部、全部、伊月さんが優しいからだ。


 そんな優しい人が、復讐のために恋人と別れて私と結婚した。それだけ彼の恨みは深かった。

 だけど、心根の温かい人だったから。

 だから、私にも最大限、良くしてくれた。惨い目に遭わせてやろうと思えば、いくらでもできたのに。


「もう、覚悟を決めないと」


 口に出してみると、思いのほか吹っ切れたような気がした。

 そうだ。これ以上甘えるのは伊月さんに迷惑になる。


 別れよう。


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