騙すなら墓場まで
土地勘もない場所をめちゃくちゃに歩き回り、歩道橋を下りようとしたときだった。
「坂崎美節さんですか?」
無感情な声が後ろから聞こえた。
その声を、私は知っている。
ゆっくりと振り向けば、フードを目深に被った女性がそこに立っていた。
「はい。あなたは……」
「冬原です」
強い風が髪をもてあそぶ。小さめの唇が軽蔑に歪んだ。
「やっぱりわかりませんか? 私のことなんて」
「……申し訳ありません……わからないです」
わかる、なんて嘘は言えなかったし、言いたくなかった。失ったものをそのまま返せるわけじゃない。ならばせめて誠実に応じるべきだと背筋を伸ばした。
「そうですよね、そりゃ一々覚えているわけありませんよね、金ヅルのことなんて」
彼女は薄く嘲笑った。背中を冷たい手で撫でられたような気がして、全身に鳥肌が立つ。
カツン、と靴音が響いた。
「みーんな、家族や恋人や友人がいたんですよ」