神に選ばれなかった者達 後編
萌音がごそごそやっていると、その音を聞きつけたのか。

「う…。…ん〜…」

「なぁに…?もう…うるさい…」

同室で寝ていた女の子達が、次々に呻いた。

起こしてしまってごめんなさいなんだけど、萌音はこの時、全く気づいてなかった。

「萌音ちゃん…?何やってるの?」

一緒の部屋で寝ていた同い年の絵里衣ちゃんが、萌音の背中に声をかけてきた。

…の、だが。

「もっと前の記録…。あれは、確かUFOの中…」

萌音は、自分の記録を探すことに必死だった。

「…あー…。また萌音ちゃんの発作が出ちゃったか…」

ぽりぽりと、呆れたように頭を掻く絵里衣ちゃん。

発作って何なの、と言いたいところだったが。

残念ながら今の萌音には聞こえてないから、無意味。

「こうなると萌音ちゃん、手が付けられないから…。そろそろ朝だし、皆、もう起きよう」

「えー…」

「もうちょっと寝てたかったのに…」

背後から聞こえる不満と抗議の声も、当然萌音の耳には入らない。

…その代わりに。

絵里衣ちゃんは素早く起きて、階下にパパとママを呼びに行った。

「あれ?おはよう、絵里衣ちゃん。今日は早いね」

「おはよう、パパ。それがね、ちょっと萌音ちゃんが…」

「萌音ちゃんが?何?」

「…何だか、いつもの発作が出ちゃってるみたい。パパ、見てあげてくれる?」

「あー…。…成程…」

さすがパパは、絵里衣ちゃんの「いつもの発作」という言葉だけで、色々と察したらしく。

「分かった。見てくるから、絵里衣ちゃんは気にせず支度して」

「うん」

そう言って、パパは階段を上り。

ノックをしてから、女の子部屋に入ってきた。

「萌音ちゃん」

「…」

パパに名前を呼ばれたけど、萌音は全く意に介さなかった。

そんな萌音の周囲には、古ぼけた何冊ものノートが散らばっていた。

「あ、パパ」

ちっちゃい妹が、やって来たパパに抱きついた。

「萌音ちゃん、何してるの?変なの」

「変じゃないよ。…たまにこうなるんだよ。探しものをしてるだけだと思うよ」

「探しもの?…なぁに?」

「記憶の探しものだよ」

さすがパパは、萌音のことをよく知っている。

李優に次ぐ、萌音の数少ない理解者の一人なのである。

「さぁ、大丈夫だから。学校の支度をしなさい」

「はーい…」

渋々、といった様子で布団を片付け、学校に行く支度をする妹。

だけど、相変わらず萌音は、自分が奇妙に見られていることも、パパが背後に居ることも気づいてなかった。

「これじゃない…。これじゃなくて、もっと前…」

段ボール箱から次々と、古いノートを引っ張り出す。

あまりに長く封印されていた為、ノートの紙がぱりぱりになっている。

おまけに、字が汚い。

それに、ひらがなの表記が多くなってきた。

萌音が小さい時に書いたものだからだ。

…こんなに前の出来事だっけ?

…うん。こんなに前の出来事だ。

萌音、ちゃんと覚えてるから。
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