神に選ばれなかった者達 後編
君は、私のⅡ

萌音side

ーーーーー…病院の四階にいた、あの気味悪いちっちゃいバケモノは、ふぁに君が弓矢で殺してくれた。

だから、病院での攻防は、これでおしまいのはずだった。

…だけど、萌音は一人、ちょっとだけもやもやしていた。

…だって、あのバケモノ。

あの、ちょっと硬いカプセルの中に入ってた、あのちっちゃいバケモノ。

萌音は、あれを見たことがある。

萌音は一度見たこと、忘れないから。







…病院の四階で、ちっちゃいバケモノを倒した翌日。

萌音はその日の朝早くに、ひょいっ、と起き上がって。

まず真っ先に萌音は、まだお布団の中で寝ている姉妹達を跨ぎながら、部屋の押し入れの中を開けた。

そこには、段ボール箱がぎっしり入っていた。

…これは萌音の段ボール箱だ。

長いこと押し入れに入れていたせいで、少し薄汚れてしまっている。

「よい、しょっ…と」

段ボール箱を床に下ろして、その蓋を開ける。

…段ボール箱の中には、何冊ものノートが、入っている。

萌音がこれまで、たくさん書き溜めてきた日記帳だ。

大切な、萌音の記憶。

萌音の宝物。

それを、手当たり次第に引っ張り出した。

ぱらぱらと捲っては、特定の記述を探す。

これは二年前…。これは去年…。…こっちは三年前。

この段ボール箱には、比較的最近の記述ばかりだ。

…ううん、違う。あれはもっと前だった。

もっと前の日記を探さなきゃ。

萌音は再び押し入れに頭を突っ込み、更に奥の方から、別の段ボール箱を引っ張り出した。

この段ボール箱は、最初に出したものより更に古ぼけて、埃を被っていた。

蓋を開けると、そこにも大量のノートが収められている。

こちらには、もっと前の記録が保管されている。

萌音が「アレ」を見たのは、萌音がもっとちっちゃい時…。

そう、あれは…。

「もっと前…。これじゃない。もっと、もっと前…」

一冊一冊、段ボール箱からノートを取り出しては、自分の傍らに重ねていく。

これじゃなくて…もっと前で…。えぇと、もっと前のノートは…。

この時萌音は、周囲のことなんて全く考えていなかった。
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