神に選ばれなかった者達 後編
そしてその日から、萌音ちゃんと一緒に暮らす日々が始まった。

初日から、萌音ちゃんがとんでもない怪力だったり、なかなか表情が動かせなかったり、日々の記録をつける趣味がある…などと。

色々と驚くことがたくさんあって、びっくりしたものの。

子供には、様々な個性があるものだ。

今はまだ、それほど深刻に考える必要はないだろう。

少しずつこの家に慣れていって、もっと心を開いてくれれば…。

俺が今願っているのは、それだけだった。

俺は夜中に起きて、こっそり女の子部屋の様子を見に行った。

萌音ちゃんがちゃんと眠っているかどうか、確かめようと思って。

この家に来たばかりの子は、往々にして、環境の激変、それに伴う不安と緊張の為に、なかなか眠れないことが多い。

もし眠れないようだったら、大人の寝室に連れてきて、添い寝して眠らせようと思っていたのだが…。

「…zzz…」

萌音ちゃんは、他の女の子達と並んで、ぐっすり眠っていた。

…良かった。よく寝てるようだ。

ホッと一安心。

眠っている女の子達を起こさないように、そっと部屋から出た。

自分の寝室に戻ると。

「…どうだった?」

ママが、赤ん坊をあやしながら、不安そうに尋ねてきた。

「大丈夫。よく寝てたよ」

「そう…。…良かった」

ママも、萌音ちゃんのことを心底心配していたらしく。

眠っていると聞いて、ホッとしたようだった。

「それにしても…不思議な子ね、萌音ちゃんって」

「え?」

「だって、そんなにたくさん日記帳を持ってるなんて…」

…あぁ、そのことか。

俺は、荷解きの時に見た萌音ちゃんの日記帳のことを、ママに話していた。

すると、ママも大層驚いたものだ。

「あの子が文章を書けるようになって、まだ一年足らずくらいのはずでしょう?それなのに…もう、そんなに何冊も記録があるなんて…」

「あぁ…。確かに、それは不思議だよな…」

自分だったら、日記を書けと言われても、多分1ページどころか…10行書くだけでも怪しい。

日記を付ける習慣がないせいでもあるけど。

日常で書き残しておきたいこと、そんなにあるかな…?

しかも、たった1年足らずの間に…。

俺達はまだ、あの子の記録がたった1年どころじゃないということを知らなかった。

あのノートは、あの子が生まれた時から。

それこそ、母親の胎内にいた頃からの記録なのだ。

六歳になって字が書けるようになってから、自分の記憶を遡って記録している。

だから、あれは実際六年分…いや、母親のお腹にいた時から合わせて、およそ七年分の日記帳、ということになる。

「早く、うちに慣れて…。心を開いてくれると良いんだけど…」

「そうだね…。でも、焦ることはないさ」

少しずつで良い。時間はたっぷりあるのだから。

今一緒に暮らしている、他の子もそうだった。

少しずつ慣れて、少しずつ心を開いて…仲良くしていければ良い。

きっと、そうなれるはずだ。




…この頃の俺達はまだ、そんな風に、楽観的に考えていた。

しかし、あの子と打ち解けて一緒に暮らすのは、そう簡単なことではなかったのだ。
< 233 / 312 >

この作品をシェア

pagetop