神に選ばれなかった者達 後編
萌音父としては、時間が経てば、萌音母が冷静になり、機嫌が直ると思っていた。

しかし、そうはならなかった。

萌音母は余計意地を張って、「私はもう真理亜の面倒しか見ない」とか言って、平気で萌音を放ったらかしにした。

育児放棄じゃねぇか。

これには、萌音父も参った。

何度説得しようとしても、むしろ説得すればするほど。

萌音母は意固地になり、萌音のことを「冷血」だとか、「感情がない」とか。

「ろくな大人にならない」とか酷いことを、平気で言った。

よくもまぁ、腹を痛めて産んだ子供にそんなことが言えたものだ。

更には、萌音の味方をしようとする萌音父に対しても。

「あなたはあの子の味方なの?」と敵愾心をあらわにした。

家庭内の緊張が高まり、常に張り詰めたような息苦しさが漂っていた。

そんな環境で暮らし続けるのは無理だった。

萌音は自分の母親…のみならず、父親にも絶望していたから。

何も言わなかった。放ったらかしにされていても。

泣かなかったし、母親に甘えることもなかった。

これまでも、ずっと放置されていたようなものなんだから。

今更母親に無視されても、それほど堪えなかった。

しかし、萌音のそんな子供らしくたい態度も、萌音母を苛立たせる要因の一つだったのだと思う。

…そんな状況でも、根気強く、萌音母を説得することを諦めてはならなかったのかもしれない。

諦めなければ、もしかしたら…あんな風に家庭が崩壊することはなかったのかもしれない。

でも無理だった。これ以上は限界だった。

萌音父としても、家庭内で争いたくはなかった。

ただでさえ仕事や、真理亜の療育のことで毎日手を焼いていたのに。

その上、長女と妻の仲を取り持つのは無理だった。

そこで萌音父は、萌音を他所の家に預けることを考えついた。

数日間、萌音母とも話し合い。

そしてある日、萌音本人に告げた。







「なぁ、萌音…。しばらくの間、家を出てよそで暮らしてみないか?」

そう、父親に聞かれた時。

萌音は、取り乱すことも泣き出すこともなかった。

驚くほど冷静で、淡々としていた。…驚くほどに。

「…よそって?何処?」

「里親って言ってな…。理由があって自分の家で暮らせない子供を、預かって育ててくれる家があるんだ」

「…ふーん…」

興味なさそうに、萌音は頷いた。

「そこに、萌音を預かってもらって…。学校も、向こうの学校に転校することになるんだが…」

転校なんて、萌音にとってはどうでも良かった。

萌音の中にあったのは、一つだけ。

私、この家に必要ないんだな。

それだけだった。
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