エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠
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「あ、紫苑さん-!お邪魔してまーっす!」
1階でコンシェルジュに一声かけた後自宅に入ると、すでにほぼ全ての家財を搬入し終えた様子の想太郎くんが段ボールを手に立っていて。
「想太郎、早かったな」
「うっす!搬出は不用品回収もあったんでちょっと時間かかりましたけど、搬入自体は物少なかったんでサクッとできちゃいました!」
私や紫苑が手伝う必要もほぼないまま、全ての荷物を運び終えた彼は、最後に室内と共用スペースの養生テープを剝がし終えてから戻って来る。
「荷解きはご自身でということでしたので、自分の作業はここまでとなります!代金もいただいてるんで、何もなければこれで終了になりますね」
「おう。想太郎、ついでにこれ持って帰れ」
キッチン奥のパントリーから1本のワインを持ってきた紫苑が、専用の紙袋にそれを入れて彼に差し出した。
「えっ!いいんすか!?紫苑さんのワインってハズレないんでマジ嬉しいっす!」
「ってなわけで用が済んだらさっさと帰れ」
「うわ!紫苑さん飴と鞭が極端っす!」
私は強制的に玄関へ押しやられる想太郎くんを追いかけて最後に一言お礼を述べる。
そそくさと靴を履いて立ち上がった彼は、首を何度も横に振ってオーバーリアクションでそれを制した。
「いやいや!こちらこそ空いた時間有効活用させてもらって助かりました!
紫苑さんはちょーっとクセのあるお方ですけど、根は悪くない人なんで!あ、こう見えて筑前煮とかお浸しとかの和食が好きっすよ!って、同棲までする彼女さんなら知ってるか。
――痛い痛い!紫苑さん耳引っ張らないでくださいよ!行きますって!」
“紫苑は和食が好き”
紫苑から容赦ない追撃を受けながらも、何気に価値のある情報まで置いていってくれた想太郎くんに感謝して私はペコリと頭を下げる。
「俺、1階まで見送って来るから荷解きしてて。右の部屋の収納は使ってねぇから好きに使って」
「あ、うん、わかった!」
パタン、とドアが閉まり、一瞬にして静寂が広がる室内で、私は積まれた段ボールの山をひとずつ開いて行く。
元々そんなに物は買わないほうだと思うし、処分できるものはなるべく不用品として想太郎くんに引き渡して来たから、荷物自体は多くない。
「よし、やるか!」
あっという間に真っ暗になっていた新宿の街並みを横目に、気合を入れる。
紫苑から借りたアウターをクローゼットに戻し、私は早速作業に取り掛かった。