お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語
翌朝、金曜日の朝8時15分。今朝は15分前に会社に到着し、秘書室のデスクでスケジュールの確認を始める。その時、ふわりと軽いコーヒーの香りが鼻をくすぐった。

美奈子さんが、湯気の立つ紙カップを差し出す。


「ここでは、好きなときに飲みたい人が自分で入れるのよ。今日は特別ね。 昨日は疲れたでしょう? 美愛ちゃんは、覚えるのも仕事も早くて的確だから、とても助かるわ。
あっ、そうだ、ドリンクコーナーの電球が1つ切れているのよ。美愛ちゃん、総務へ行って交換の申請をしてきてくれるかな? やり方は覚えている?」

「はい、覚えています。えっと、この申請書に記入して、総務の方に提出すればいいんですよね?」

「そうそう。申請書もこれで大丈夫よ。じゃあ、お願いね」


コーヒーをデスクに置き、申請書を手にして総務部へ向かった。




廊下の先にある総務部は、静かな秘書室と違い活気がある。まず、近くにいる女性に話しかけたが、喉が詰まり声が小さくなる。

「す、すみません。秘書室のドリンクコーナーの電球交換をお願いしたいのですが……」


カウンター越しから喉を刺激する、強い香水の香り。そのせいで、喉がキュッと締め付けられる感じ。


「……」


もしかしたら、聞こえなかったのかも。

再び彼女に声をかけた。


「あ、あのすみません……」

「何よ、うるさいわねぇ。今、ネイルのチェックをしているのがわからないの? それに、あなた誰? 見ない顔ね?」


予想外の対応に、申請書を持つ手に力がこもった。その女性の下から上へと這うような視線に、体が強張る。


「は、初めまして。秘書の花村です。電球の……」

「えっ、何ですって? あなたが新しい社長秘書なの? 冗談じゃないわ! どうやって社長に取り入ったのよ?」


その女性が目を吊り上げ、怒って大声を上げた。総務室が一瞬静まり返る。そして全員の目が私たちに向く。その中には杉山部長もおり、急いでこちらに駆けつけた。


「また君か、佐藤さん。なぜ騒いでいる?」

「部長、この女が新しい社長秘書だなんて、私は認めません!」

「そんな権限は君にはない。一体、仕事もしないで何をしているんだ?」


怒りが収まらないその女性--佐藤さんは、さらに声を張り上げた。


「今は仕事どころではありません。こんな女が社長秘書を務めるなんてあり得ません。あなた、どうやって社長に取り入ったのよ? こんなどこの馬の骨かわからない下品な子が!」

「佐藤さん、君は非常に失礼なことを言っている。まず、花村さんに謝罪しなさい。それから、この件については上層部にも報告します。」


呆れた表情を浮かべた杉山部長が忠告する。


「冗談じゃないわよ。なんで後からのこのこと来たあんたが……社長秘書にふさわしいのは私なんだから! パパだってそう言ったし!」


勤務中にもかかわらず喚き散らした佐藤さんは、大きなヒールの音を響かせながら部屋を出て行ってしまった。
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