お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
涙を止めようと立ち上がり、夜空の月を見上げた。どうしてだろう。その光を見ていると、胸の奥が静かに癒されていく気がする。
すうっと、光に引き寄せられるような感覚だった。

 
「美愛ちゃん!」

 
……あれ、雅さんに呼ばれた?

ううん。きっと、空耳だよね。

 
「美愛ちゃん!」

 
再び聞こえた声は、さっきよりも大きく、走ってくる足音が近づいてくる。

 
「やっと見つけた……無事でよかった!」

 
力強く抱きしめられる。

かすかな汗と、紅茶とムスクの香りがふわりと鼻をかすめた。

ーーあっ……雅さんだ。

 
「こんなに冷たくなって」

 
彼はスーツのジャケットを脱ぎ、私の肩にかけてくれる。そのまま、指を絡めるように手を繋いでくれた。

 
「俺たちの家に帰ろう」

 
言葉はなかった。それでも、繋がれた指先から、じわりと温もりが広がっていく。




帰宅した私たちの間で、最初に口を開いたのは雅さんだった。


「部屋に行って、お風呂の準備をしておいで。とにかく早く温まらないと」

 
着替えを持って浴室へ向かう。部屋で外し忘れていたネックレスを、洗面台の隅に置いた。

髪と体を洗い、ゆっくりと湯船に浸かる。

いつもはミルク系の入浴剤を使っているが、今日は雅さんがラベンダーの入浴剤を入れてくれていた。やわらかな紫色の湯が、ラベンダーの香りで満たされている。

そのさりげない心遣いが、嬉しい。それでも、心の奥はまだ冷たいままだった。これから、どう接すればいいのか、わからない。

脱衣所でパジャマに着替え、タオルドライしただけの髪のまま廊下に出た。ドライヤーを使う気にもなれず、そのまま自分の部屋へ戻ろうとする。

キッチンの前を通りかかったとき、雅さんに呼び止められた。


「美愛ちゃん、ソファーに座って」

 
彼は浴室へ向かい、ドライヤーを持って戻ってくる。


「風邪をひかないように、しっかり乾かさないと」

「……大丈夫です」

 
立ち上がろうとした瞬間、両肩を軽く押さえられ、そのまま座らされた。

 
「いいから、俺の言うことを聞いて」

 
無言のまま座っている私の髪を、雅さんが乾かしていく。

早く部屋に戻りたいーーそう思っているのに。温かな風と、指の感触に包まれて、少しずつ体の力が抜けていく。

このままでいたい、と思ってしまう。

……小さい頃。
父さまと圭衣ちゃんに、こうして髪を乾かしてもらったことを思い出す。気持ちよくて、そのまま眠ってしまったんだよね。

懐かしいな。
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