お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜
「……美愛ちゃんは、大切な人だ」


圭衣ちゃんの視線が、わずかに鋭くなる。


「その『大切』って、どういう意味?」


静かに問い返される。


「その言葉だけでは、はっきりしないわね」


来ると思った。シスコンのスイッチが、完全に入っている。

もし、美愛ちゃんがただの社員であり、利害関係だけの同居だというのなら、すぐにでも解消すべきだと、そう言いたいのだろう。

だが、このときすでに、俺の中で答えは決まっていた。

曖昧にしてきた感情。
見ないふりをしてきた想い。

もう、迷わない。


「彼女に対して、恋愛感情を抱いている」


美愛ちゃんのエクボの笑顔が、頭をよぎる。


「一緒に過ごすうちに……これからも、ずっとそばにいたいと思うようになった」


圭衣ちゃんの視線が、さらに深くなる。


「もう一歩、踏み込んで聞くわ」


逃がす気はない、という声だった。


「その感情は、ただの『好き』なの?」


圭衣ちゃんの言葉に、喉の奥が張り付く。


「それとも、結婚を視野に入れているの?」

「おいおい、さすがに踏み込みすぎだろ」


大和が口を挟む。だが、圭衣ちゃんは一切引かない。


「あなたの答え次第で、あの子を実家に連れ戻すわ」


淡々と告げる。


「もちろん、この会社も辞めさせる」


空気が、一瞬で張り詰めた。大和が反論しかけるのを、手で制する。そして、しばらく黙る。

逃げるか。それとも、向き合うか。


「……俺は」


ゆっくりと、息を吐く。


「彼女との結婚も、考えている」


その言葉に、圭衣ちゃんはわずかに目を細めた。


「そう。それなら早く婚約してちょうだい」


圭衣ちゃんの懸念は、ただ一つ。美愛ちゃんの安全だ。『慶智の王子』の一人である俺との関係が公になれば、マスコミは容赦なく彼女を追い回すだろう。

それだけじゃない。


「あなたたちと結婚を狙っている女性たちに知られたら、どうなるか考えたことはある?」


その声には、わずかな怒りが滲んでいた。


「傷つくのは、美愛ちゃんなのよ」

「……わかってる。二度と、彼女を傷つけないと約束する」


一瞬、言葉を選ぶ。


「ただ、こればかりは彼女の気持ちも……」

「大丈夫よ」


遮るように言われる。


「あなたは、昔の約束を果たせばいいだけ」


意味深な微笑みを浮かべる。


「そして必ず、あの子を守りなさい」


その言葉が、腹の底にずしりと落ちた。

……どこか、大和に似ている。そんなことを、ふと思う。




証言の録音は無事に終わった。

書面に署名を終えた圭衣ちゃんを、大和が階下まで見送っていく。
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