『46億年の記憶』 ~命、それは奇跡の旅路~ 【新編集版】
「私の友達にデジタル分野で博士号を取ったとても優秀な人がいるんだけど、彼女が電機メーカーの採用面接を受けた時に何を訊かれたと思う?」
「それは当然、大学院で専攻した専門分野に関することじゃないの」
「いいえ。そんなことまったく訊かれなかったのよ。訊かれたのは、組織の中でうまくやっていけるかどうか、つまり、人間性に関することとか、コミュニケーション能力に関することとか、そんなことばかりだったんだって。彼女は自分が専門誌に発表した論文について質問が来ると思って一生懸命準備したのに、全部無駄になったって憤慨していたわ」
「ふ~ん」
新は〈信じられない〉というふうに両手を広げた。
「面接官は何を考えているんだろうね」
「そうでしょう。信じられないわよね。専門性のなんたるかをわかっていない人に面接させてはいけないのよ。本当、バカみたい!」
考子が当時のことを思い出して自分のことのように憤慨すると、新は〈わかるわかる〉というふうに首を縦に振った。
「それで、その友達は?」
「『日本に居ても将来が開けない』と言って、さっさとアメリカへ渡って行ったわ。今はアメリカの超有名な研究所で働いているの」
考子が口にしたのは、知る人ぞ知る超エリートしか採用しない研究所だった。
「凄い! そこって世界最先端の研究をしているところだよね。そこで認められたんだ。凄すぎる。でも、そんな優秀な人材を日本は逃しちゃったわけだよね。本当にバカだよな」
「そうでしょう。あり得ないわよね。せっかくの希少な人材を流出させたのだから、責任を取ってもらいたいと思うわ」
「その通りだよ。でも一番の被害者は彼女だよね。日本に愛想を尽かせているんじゃないの」
「そうなの。だからもう日本には帰ってこないって言っていたわ。向こうで出会ったアメリカ人の研究者と結婚したから、アメリカで骨を埋めるんだと思うわ」
「そうだろうね。そういう話を聞くとなんか虚しくなってくるね。イノベーションの担い手になるべく努力してきた博士号取得者を評価できないでいると、日本は後進国に後戻りする可能性だってあるね」
「そうだと思うわ。私は博士号を取得したし、あなたも6年間の教育を受けて医師になって頑張っているけど、これから生まれてくる子供たちに同じ道を歩んで欲しいなんて言えなくなるかも知れないわね」
「そうだね。でも、子供たちには専門性を身に付けて欲しいから、大学院で博士号を取得してもらいたいよね。ただ、そうなるとアメリカへ行かせるしかないかもしれないね。君の友達みたいな嫌な思いはさせたくないから」
「そうね。日本を捨てなさいって言ってるみたいで辛いけど、その選択肢は真剣に考えた方がいいかも知れないわね。でも……」
二人が目を合わせた。
その途端、互いに同じことを考えていることを理解した。
頭の中は、これから生まれてくる子供の教育費のことでいっぱいになっていたのだ。
「それは当然、大学院で専攻した専門分野に関することじゃないの」
「いいえ。そんなことまったく訊かれなかったのよ。訊かれたのは、組織の中でうまくやっていけるかどうか、つまり、人間性に関することとか、コミュニケーション能力に関することとか、そんなことばかりだったんだって。彼女は自分が専門誌に発表した論文について質問が来ると思って一生懸命準備したのに、全部無駄になったって憤慨していたわ」
「ふ~ん」
新は〈信じられない〉というふうに両手を広げた。
「面接官は何を考えているんだろうね」
「そうでしょう。信じられないわよね。専門性のなんたるかをわかっていない人に面接させてはいけないのよ。本当、バカみたい!」
考子が当時のことを思い出して自分のことのように憤慨すると、新は〈わかるわかる〉というふうに首を縦に振った。
「それで、その友達は?」
「『日本に居ても将来が開けない』と言って、さっさとアメリカへ渡って行ったわ。今はアメリカの超有名な研究所で働いているの」
考子が口にしたのは、知る人ぞ知る超エリートしか採用しない研究所だった。
「凄い! そこって世界最先端の研究をしているところだよね。そこで認められたんだ。凄すぎる。でも、そんな優秀な人材を日本は逃しちゃったわけだよね。本当にバカだよな」
「そうでしょう。あり得ないわよね。せっかくの希少な人材を流出させたのだから、責任を取ってもらいたいと思うわ」
「その通りだよ。でも一番の被害者は彼女だよね。日本に愛想を尽かせているんじゃないの」
「そうなの。だからもう日本には帰ってこないって言っていたわ。向こうで出会ったアメリカ人の研究者と結婚したから、アメリカで骨を埋めるんだと思うわ」
「そうだろうね。そういう話を聞くとなんか虚しくなってくるね。イノベーションの担い手になるべく努力してきた博士号取得者を評価できないでいると、日本は後進国に後戻りする可能性だってあるね」
「そうだと思うわ。私は博士号を取得したし、あなたも6年間の教育を受けて医師になって頑張っているけど、これから生まれてくる子供たちに同じ道を歩んで欲しいなんて言えなくなるかも知れないわね」
「そうだね。でも、子供たちには専門性を身に付けて欲しいから、大学院で博士号を取得してもらいたいよね。ただ、そうなるとアメリカへ行かせるしかないかもしれないね。君の友達みたいな嫌な思いはさせたくないから」
「そうね。日本を捨てなさいって言ってるみたいで辛いけど、その選択肢は真剣に考えた方がいいかも知れないわね。でも……」
二人が目を合わせた。
その途端、互いに同じことを考えていることを理解した。
頭の中は、これから生まれてくる子供の教育費のことでいっぱいになっていたのだ。