引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

21.あなたの色

 王太子妃として紹介されたリリアーナを人々は怪訝そうな目で迎えた。何せこちらは“引きこもり令嬢”なので致し方がない。

 婚約者として披露するダンスの番となってもそれは変わらなかった。これを塗り替えることが果たして可能なのだろうか。

「大丈夫だ、リリアーナ」
 それは疑う余地のない強い言葉。

 シルヴィオは、両手をぱんと一つ叩く。
 薄い唇が美しく弧を描く。ただしその目は全く笑っていない。
 そのまま彼は辺りをくまなく見回した。睨みつけたといった方が正しいのかもしれない。凄絶な笑みに凍らされたように、大広間はしんと静かになる。

「さあ、はじめようか」

 こちらに向き直ったシルヴィオは、いつもと変わらぬ凛とした顔をしていた。その眼差しには隠し切れない愛おしさが滲んでいる。

 つめたくやさしい、わたしの氷の王子様。

 やがて、ゆっくりと音楽が始まる。

 この景色を、リリアーナはきっと一生忘れないだろう。
 昼間のように煌くシャンデリア。眼前で、銀色の髪がくるりと舞い遊ぶ。目が合うと、輝きを増した青はただ静かに微笑み返してきた。

 いつもそうだ。あなたは、わたしの世界を一瞬で染め上げていく。
 世界は、あなたの色をしている。

 終わってしまえば、それは名残惜しくも感じるほどに。また永遠を(こいねが)ってしまった。

「ちゃんと、特別だったか?」
 珍しく窺うように、シルヴィオは訊ねてきた。

「は、はい?」
 こんな景色を見せておいて、この人は一体何を言うのだろう。

「君が言ったんだろう? 『好きな人と踊るダンスは特別だ』と。これが特別でなければ、私は少し困る」

 まるで少年のような顔をしてシルヴィオは目を逸らした。こんな顔を、他の誰も見たことはないだろう。

「はい」
 大きく頷いて、目の前の長身を見上げた。

 リリアーナしか知らない、シルヴィオの素顔。

「特別、でした」
「そうか。それならよかった」

 その腕の中に引き寄せられる。強く抱き締められて心臓が止まるかと思った。自分のうるさい鼓動の向こうに何やら悲鳴のようなものも聞こえる。まあ、己のことでなければリリアーナもそうなっただろうなと思う。

「あの、皆さん、すごく見ていらっしゃいますけど」
「気にしなくていい。そのうち君も慣れる」

 どう考えても慣れるようには思えなかったけれど、応えるように広い背に手を回す。額を合わせてリリアーナはシルヴィオと笑った。


 たった一人、自分と一生をともにする人の手と手を取り合って。その手に身を預けて飛び出した。
 これが、わたしの選んだ世界だ。
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