黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
メリアと出会った夜会から一週間が経ったとある日。ソフィアは屋敷の廊下に何かが落ちていることに気が付く。
(何かしら?……手紙?)
近づいて拾ってみると、やはり手紙のようだ。宛先はルードで、差出人の欄には、メリア・ゲルニカと記載されている。
(メリア様から、ルード様へ?)
ソフィアの胸がなぜかざわつく。どうして、メリアがルードへ手紙を出しているのだろうか。ソフィアが手紙を持ったまま硬直していると、背後に人の気配を感じる。
「ソフィア?どうかしたのか?」
ルードの声がして振り返ると、ルードはソフィアの手元にある手紙に気付いて、顔を顰めた。
「あ、手紙が、落ちていたので」
そう言って、ソフィアが静かに手紙を差し出すと、ルードはバツの悪そうな顔で手紙を受け取った。
「すみません、差出人の名前が見えてしまったのですが、メリア様からですね」
「……ああ、最近、メリアから頻繁に手紙が届くんだ。だが、別にやましいことは何もない。手紙にも一度しか返事をしていない。メリアから一方的に手紙が届くだけだ。信じてくれ」
ソフィアの複雑そうな表情を見て、ルードは慌てたようにそう言った。きっと、ルードとメリアの仲を疑ったと勘違いしたのだろう。もしくは、実際に二人の間には何かあって、それを知られたくなくて慌てたのだろうか?ソフィアの心はもやもやと黒い霧がかかったようにすっきりしない。
(でも、ルード様は嘘をつくような方ではないわ。それは私が一番よく知っている)
一緒に過ごして来た中で、ルードはソフィアに対していつだって誠実だ。ソフィアを裏切るようなことはしないし、そんなルードを疑うこともしたくはない。
「……わかりました、ルード様を信じています」
そう言ってソフィアがふんわりと微笑むと、ルードはホッとしてソフィアを抱きしめた。
「ルード様?」
「ソフィアに信じてもらえてよかった。ソフィアに信じてもらえなかったら、俺はどうしていいかわからない」
ぎゅっとソフィアを抱きしめる力が強くなる。ルードの気持ちを知って、ソフィアは嬉しくなるが、ほんの少しだけ意地悪な気持ちも芽生えてしまう。
「それならルード様、どうしてメリア様から手紙が来ていたことを黙っていたのですか?黙っていれば、気づかれないとでも?」
確かに、たまたま廊下に手紙が落ちていたからソフィアも気づいただけで、手紙が落ちていなければソフィアはメリアから手紙が来ていることを知らないままだったかもしれない。だが、こうして運悪く手紙は廊下に落ちていて、ソフィアに拾われてしまったのだ。
「……ソフィアに余計な心配をかけさせたくなかったんだ。だが、結果は逆効果だったみたいだ。本当にすまない」
ソフィアを抱きしめたまま、ルードはソフィアの肩に顔をうずめて落胆している。そんなルードの背中を、ソフィアはふふふと微笑みながら優しく撫でた。