傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
「……凪?」

 不意にそう声をかけられ、凪は足を止めた。

「周、吾……」
 
 目の前にいたのは、元カレの周吾だった。
 可愛らしいドット柄の浮き輪を脇に抱えながら、水着姿の周吾は信じられないという表情で凪を食い入るように見つめている。

 同時に凪の顔もひきつる。高揚した気分に水を差さされ、一気に気持ちが萎えた。
 
 どうしてここにいるんだろう。凪がこのホテルを予約していたことは、周吾も知っていたはずだ。……いや、もしかしたら覚えてすらいなかったのかもしれない。

(だからって、こんな偶然……)

 神様は意地悪だ。できればもう、顔を合わせたくなんてなかったのに。

「おまえ、もう男ができたのかよ」

 軽蔑するように吐き捨てられ、凪はムッと唇を引き結んだ。
 まるで凪が浮気をしているかのような言い草だ。というか、自分が浮気をして身勝手に別れを切り出したくせに何を言っているんだろう。
 たとえ漣と付き合っていようと、もう周吾には一切関係ない。

 ふつふつと胸の奥から怒りが湧き起こってくるが、凪は必死にそれを押し留めた。漣の前で醜い姿は見せたくないから。

「ごめん漣、行こう?」
「はあ?おい、待てよ!」

 無視を決め込んで周吾の横を通り過ぎようとしたけれど、力任せに腕を掴まれ阻まれてしまう。腕に走った痛みに顔をしかめたのも束の間、「うぐっ」と呻き声が聞こえたと同時に腕が解放された。
 漣が憤怒の形相で、周吾の手を掴んでいたからだ。
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