『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 13時間の飛行が終わった。
 現地時間は18時8分と表示されていた。
 マルペンサ空港の出国ゲートには長い行列ができていた。
 寒くもなく暑くもない5月のミラノは観光に最適なので、世界中から観光客が押し寄せているようだった。
 加えて、背広姿のビジネス客も少なくなかった。
 
 かなり待たされて出国ゲートを抜けた男は、スマホでルートを確認して、スーツケースを押しながら空港に隣接するホテルへ向かった。
 
 一番安いシングルルームを予約していた。
 無職になった男に贅沢は許されないからだ。
 新婚旅行のために貯めたお金と僅かな退職金で今回の旅行と今後の生活費を賄わなければならない。
 節約! と口に出して、1階のフロント脇にある棚からサンドイッチとビールを手に取った。
 今日の夕食はこれがすべてだ。
 しかし、なんの問題もない。
 彼女と一緒なら高級レストランのディナーと変わらない。

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