『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 昼前にナヴィリオ運河に着いた。
 元々は大聖堂を取り囲むように作られたもので、生活物資を運ぶ重要な水路だったが、戦後埋め立てられて僅かに2本残っているだけだという。
 ライトアップされる夕暮れ以降が綺麗だとガイドブックに書いてあるが、夜は行きたいところが別にあるので、ここで昼食を取ることにした。
 
 まだ時間が早いせいもあって、運河沿いのテラス席に座ることができた。
 地ビールの小瓶と魚介の唐揚げを注文すると、それほど待たされずに運ばれてきた。
 エビ、シャコ、ムール貝、それに、何かは知らないが白身の魚、その上にレモンが一切れ乗ってある。
 ジュッと絞ってエビを頬張ると、カラッと上がった殻が香ばしかった。
 それに身の甘いこと。
 余りに美味しいので紙コップのような容器の半分くらいを一気に食べてしまった。
 しかし、残りの半分はゆっくり食べる。
 彼女との時間を大切にしなければならない。
 運河がよく見えるように紙コップ型容器に写真を立てかけて、椅子も運河の方に向けた。
 
 よく見えるかい? 

 彼女の顔を覗き込んだ。

 素敵な景色ね。

 彼女が微笑んだ。

 ビールが無くなったので、ちょっと贅沢するね。

 彼女に断って、もう1本頼んだ。

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