『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 駅の反対側にその店はあった。
 陽が落ちて灯りに照らされたガリバルディ地区にひっそりと佇む店。
 ニューヨークや東京と同じ店名のジャズクラブ。

 この店に君を連れてきたかったんだ。
 君と初めて会ったジャズクラブと同じ店名だからね。
 今宵は二人で素敵なジャズを聴こうね。
 
 微笑む彼女を胸に抱いて店の中に入った。
 2階のカウンター席に座ってメニューを開くと、おいしそうな料理が目に飛び込んできたが、ぐっと我慢して一番安いものを頼んだ。
 パニーノ。
 それに合わせる飲み物をどうしようかと少し迷ったが、赤のグラスワインにした。
 
 彼女の写真にグラスの縁を当てて乾杯した。
 少しして運ばれてきたパニーノは結構な大きさで、パンに挟まれた具材がはみ出ていた。
 大きく口を開けて一口かじると、ハムとチーズと野菜のバランスが最高で思わず頬が緩んだ。
 
 美味しい? 

 彼女が私の顔を覗き込んでいた。

 とっても。

 良かった。

 彼女が笑った。

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