『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 演奏が終わって驚きながら拍手をしていると、「これは知っているかしら?」と悪戯っぽい笑みを浮かべてビートルズの曲を歌い出した。
『STRAWBERRY FIELDS FOREVER』
 落ち着いたテンポでボサノヴァ調にアレンジしている演奏が心地良い。
 それに、けだるそうに歌うピアニストの声に引き込まれた。
 色々な心情を表現できる七色の声が観客の心を鷲掴みにしていた。
 
 演奏開始から60分が過ぎた頃、ステージ最後の曲が終わった。
 しかし、当然のように観客はアンコールを求めた。
 一度控室に下がった三人がステージに戻ってくると、拍手と口笛が彼らを迎えた。
 
 アンコールを2曲続けたあと、ピアノだけをバックにしてあの名曲が始まった。
『SMILE』
 映画『モダン・タイムズ』のためにチャップリンが作った曲。
 
 演奏が終わった瞬間、手に持った写真が震えるように動いた気がしたので視線を移すと、何か言いたそうな表情になっていた。
 
 何? 

 彼女の唇が動いた。

 あなたも笑って。

 そうだね、新婚旅行だものね、笑わないとね。

 写真に向かって口角を上げた。
 でも、すぐに彼女に注意された。

 目が笑っていないわよ。

 その通りだった。
 不自然なのは自分でもわかっていた。

 もう少し時間をくれるかな? 

 わかったわ。

 優しく包み込むような声だった。

 ありがとう。

 彼女の唇にキスをして、そっと胸に抱いた。

< 181 / 269 >

この作品をシェア

pagetop