『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 夕方、交番へ向かいました。
 被害届を出すためではありません。
 これ以上あの男に関わり合うのはごめんだし、それに、調書を取られるわけにはいきません。
 わたしは未成年の家出娘なので、保護されて実家に送り返されるのがわかっているからです。
 そんなことになったら人生は終わってしまいます。
 
 対応してくれたのは若い男性警官でしたが、リサイクルショップと電器店を探していると伝えると、怪訝そうな顔になりました。
 調べればすぐに見つかるのに、というような目をしていました。
 そんなことはわかっていますが、わたしはパソコンも携帯電話も持っていないし、電話帳も持っていないのです。
 どこに何があるのか探しようがないのです。
 でも、そんなことを説明しても意味はないので、職業別電話帳を貸してくれたら自分で探すと伝えました。
 すると彼は面倒くさそうに立ち上がって、棚から電話帳を引き抜いて渡してくれました。
 
 交番勤務の警察官は親切な人が多いと聞いていましたが、そうではない人もいることを知りました。
 見回りと道案内などの単純な業務に飽きているのだろうか、
 刺激のある事件に飢えているのだろうか、
 被害届を出せば目の色が変わるのだろうか、
 そんなことを考えながら電話帳のページをめくりました。
 
 調べた結果、近くにはなさそうでしたが、隣町に各1軒あることが確認できました。
 ペンとメモを借りて書き留めました。
 礼を言って電話帳を返しましたが、彼は、どうも、とだけ言って道路の方に目を向けました。
 この町の男は終わっていると思いました。
 越してきたばかりでしたが、もう引っ越すことを考えてしまいました。

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