父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「おめぇが亡くなった父親に義理立てする心持ちはわかるがよ」
茂三が憐れみの目を丑丸へ向けた。
「だけどこのままじゃ、おめぇは武家どころか町家の身にもなれねえ無宿者になっちまうんだぜ。したら、だれにも相手にされなくなって其処らで野垂れ死んじまうかもしれねぇんだぞ」
「そうだよ、よっく考えとくれ」
およねも目を潤ませて云う。
「あの世のお父っつあんだってさ、あんたが御武家だろうと町家の者だろうと、無事に生きててくれさえすりゃあ御の字なんじゃねぇのかえ」
丑丸はまた、ぎゅーっと目をつぶった。
先ほどよりもずっと、さまざまに思いを巡らせているのであろう。
茂三もおよねも、ただじっと待つしかできなかった。
ようやく、丑丸の目が開いた。
「……紙と筆を貸してくんねぇか」
「へっ、な、なんだ、なにを書く気なんでぇ」
茂三の面が、鳩が豆鉄砲を喰ったかのごとくなる。
「お前さん、いいじゃないか」
およねが茂三の袂をくいっと引いて制す。
「取ってくっから、ちょいと待ってな」