父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
「およねがいくら親身になって夜通し看てたってさ、本当のおっ母さんにゃあ敵わねえのよ。
きっと御武家の御新造さんだってそうだろうよ」
茂三はさように云うと三和土を上がって家の奥に入って行った。
そしてしばらくすると、一枚の漆喰紙を手に戻ってきた。
「丑丸が八つのときに書いたもんだ。しっかりとした立派な字だ。持って行きな」
止めどなく流れる涙を袖の先で拭うと、おすみは恭しく紙を受け取り、その字をじっくりと眺めた。
「ととさん、かかさん、もとめたし」
「父さん 母さん 求めたし」〈 完 〉


