【ピュアBL】本当は、だいじょばない短編ver.

*遥斗視点

「俺、彼女出来るかも」と莉久くんが呟いた日。

「えっ?」

 一瞬莉久くんを見て、視線をその時に読んでいた小説に戻した。文字が文字ではなくなった。ぐにゃぐにゃしだして、頭の中をただ通り過ぎて行く背景のようになった。

「よかったね! 莉久くんは頼りになるし、カッコイイもんね、彼女ぐらいすぐに出来るよね。莉久くんの彼女になった人はきっと、幸せになれるね」

 本当は、よかったなんて少しも思っていなかった。誰かも分からない〝莉久くんの彼女になりそうな人〟にものすごく嫉妬した。

 僕の心は黒いペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされた感じになって、息苦しくなる。

 その場にいるのが怖くなってきたから、ふらふらしながら外に逃げた。

 

 今の、不自然に外に行く自分の態度はありえなかったな。

 莉久くんに不快に思われたらどうしよう。

 嫌われたくないな――。

 一回マイナスなことを考え始めるといつもずっと考えすぎて、気持ちがどん底にまで落ちてしまう。

 寮から出てすぐの場所でうずくまっていると、莉久くんが僕のコートを持ってきてくれて、心配までしてくれた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

 無理やり笑顔を作って僕は言った。

 心配なんてされたくなかった。面倒くさがられたり嫌われたりするのが嫌だったから。

 

 いつも自分の本音を、弱さを見せるのが怖かった。いつからか、弱い部分の見せ方が分からなくなっていた。

 ずっとずっと、その気持ちを誰にも悟られないように生きてきた。

 もう聞かないでほしい、だけど聞いてほしい。

 自分でも今、どうしてほしいか分からなかった。

 

「大丈夫?」

「うん、本当に大丈夫だよ」

 莉久くんはもう一度聞いてくれた。真剣な眼差しで。だけど僕は嘘をつく。

「本当のこと教えてほしい」

 これ以上嘘をつくのが辛くなってきた。

「大丈夫?」

「……本当は、だいじょばない。嫉妬で狂いそう」

 気持ちを言葉にすることにより、本当の気持ちを認めてしまった。



 今まで押し込めていたものがすごい勢いで溢れてくる。

 我慢していた涙も。

 閉じ込めていた感情も。

 初めて見せたくない本音を莉久くんに見せてしまった。

 嫌われたかな、もう莉久くんとは友達でいられないのかな……。

「俺も、遥斗が俺以外の誰かと付き合うとか……逆の立場だったらもう狂いすぎると思う。多分、暴れる」

「えっ?」

 予想外の言葉。僕は何を言っているんだろうと思い、勢いよく顔をあげた。

「ごめん、嘘ついたんだ。彼女なんて出来る気配もないし、いらない」

「……」

「俺がほしいのは、遥斗だけ。ってか、すごく震えてるじゃん」

 莉久くんが抱きしめてくれた。

 そして「付き合ってくれる?」って告白してくれたから頷いた。

「これからはだいじょばないことは、何でも言ってくれる?」

 言葉を聞いて、もう一度頷いた。

――あぁ、莉久くんには本音を伝えても大丈夫なんだ。
――本音を伝えても怖くはないんだ。

 本音で話してくれる莉久くんに僕も本音で応えたい。そして安心して欲しくて、嬉しくもなって。自然に笑みが溢れてきて、笑顔で「もう大丈夫だよ」と、返事をした。

 莉久くんは、ちょうどその時に降っていた優しい雪のようだった。

 もう大丈夫。本当に、大丈夫――。
 ありがとう、莉久くん。
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