魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 罪の意識に苛まれ、自分を苦境に追いやるだけで、周りにいる誰のことも省みようとしない。そんな人間が多くの人の上に立っていいはずがない。遅まきながら、やっとそこでディクリドは自分が領主になったことを自覚し、今の行いが生前の家族達の教えに背くことに思い至る。変わらねばならない――。

 ディクリドはそれ以後、配下たちと未来のハーメルシーズ領について話し合うようになり、積極的に街の視察に赴くようになった。すると不思議と、民たち一人一人の顔がよく見え、そこで気づいた。

 今まで領主としてのディクリドは、民を数でしか捉えていなかった。どのような人が苦しみ、助けを求めているのかを知りもせず、興味も持たずに淡々と決まりきった仕事だけをこなしてその気になっていた。それでは富む者はさらに富み、貧しいものは永遠にその苦境から抜け出せないではないか。

(お前はあの時、父上からすべてを信じて任されたのではなかったのか……!)

 父だけではなく、戦場で散っていった多くの兵士たちもそうだ。領民の幸せをディクリドに託し、自分が死ぬかもしれないと分かった上で、戦地に赴いたのだ。なのにディクリドは、こうしておめおめと生き永らえながらも、彼らの家族のことを見舞おうともしなかった。
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