魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 彼の心の傷は、家族の欠落でできている。それを埋める一番の方法は幸せな家庭を築くことだと思う。
 でも……私ではそれはきっとできない。私は貴族の娘ではあっても、元から高貴な人の血を引き継いだわけでもなく、しかもすでに没落寸前の家柄の出だ。彼と結ばれるには、価値が明確に足りていない。

 ならばそれを無視して、このままの関係をずっと続けていくのか……。
 それでも、彼さえ傍にいてくれるなら私は一向に構わない。でもそれでは、ずっと彼も私も、なにかに疑問を感じたまま過ごすことになるだろう。

 そして彼には大切な役目があり、それを放りだすことはできはしない。きっとどこかで関係を清算し、別れを切り出さなくてはならない時が来る。

 あの時から心の片隅でずっと考えていた。ふたりで幸せになれる方法はないのかと。今も必死で頭を巡らせている。

 けれど――そんなものはどこにも見つからない。やっぱり駄目だと、私の中ではそう結論づいた。

 私はディクリド様を誰よりも信じ、愛している。
 そして彼も、私に対してこの上なく誠実に接してくれている。でも、彼が心を傾けてくれるほど、それはただ気を引いて、弄んでいるのと同じことになるのだ。
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