ショパンの指先
 あの男に洵がやきもちを妬いてくれていたと考えるのは、私の勘違いだろうか。

 無性に聞いてみたくなった。こうなるともう私は止められない。こんなこと本人に直接聞くことじゃないとか、振られるのが怖いとか、そんなことどうでもよくて、ただ聞きたいという純粋な欲求が勝っていた。

「洵は、私のことが好きなの?」

 私の直球すぎる問いに、洵は目を丸めて驚いた。

「はい?」

 洵は目を泳がせ、声は上擦っていた。

「私のこと好きなの?」

 もう一度聞く。答えを知りたいから聞く。

 好きだって言われたら最高に嬉しいし、好きじゃないって言われたら、だよね、で終わればいいことだ。

 もしも「好きじゃない」って言われたら悲しいけれど、分かっていたことだし、別に落ち込むほどのことでもないと、昂る心臓に言い聞かす。

「杏樹は俺のこと好きなの?」

 まさかの質問返し。ズルい。

 でも最初に答え辛い質問をしたのは私なので、正直に答えよう。

「好きよ」

 あっさりと告白した。

 洵は「へ~」と小さい声を出して、ピアノの鍵盤を見つめた。耳が少し赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。

「洵はどうなの?」
「俺は……。女の子が出待ちしていたのは杏樹が初めてじゃない」
「へ~、モテるのね」

 少し嫌味を入れて言ってみた。だからなんだ。質問の答えになってない。

「でも、部屋に入れたのは杏樹が初めてだ」
「それってどういうこと?」

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