あなたの側でしか輝くことができない

ep3

練習室の鏡の前で、私は汗を飛ばしながらダンスを続けていた。
そこへ突然、扉が開き、社長とひとりの青年が入ってくる。

「失礼するよ」
「しゃ、社長!」

白髪交じりのオールバックに、獲物を狙うような鋭い目。
その圧だけで空気を支配する男が、不敵に口角を吊り上げた。

胸がざわつく。息が苦しい。

「愛ちゃん。これから君のプロデュースは、大和が担当することになった。同い年の練習生だ。よろしくな」

社長に紹介された青年は、細身の体を縮こまらせながら顔をのぞかせた。
黒縁メガネに隠れた視線は、まるで人目を避けるように落とされている。
背筋は丸まり、リュックをぎゅっと前に抱え込むその姿は、プロデューサーというより、学校帰りの中学生にしか見えなかった。

――この人が私のプロデューサー?

同い年とは思えないほど頼りなく、口から絞り出した言葉は「…は、はい」だけ。
まるで壊れた機械のように。

けれど私はすぐに知ることになる。
彼の音楽だけは、誰よりも雄弁で、力強いということを。

黒いリュックを背負ったまま、ぎこちなく頭を下げる。
「や…ま…とです。よろしくお願いします」

「お前、そんな声じゃ聞こえねぇだろ」
社長に叱られ、大和はさらに口をつぐんだ。

社長は肩をすくめる。
「ごめんなぁ、愛ちゃん。コイツ、ほんとシャイでさ。でも音楽に関しては天才だから。じゃあ、大和、しっかり打ち合わせするんだぞ」

そう言い残して、社長は去っていった。

静まり返った練習室に、気まずい空気だけが残る。

「や、やまとくん?よろしくね」
「は、はい」
「練習生なんだ?」
「は、はい」

会話は途切れがちで、まともに続かない。

(え…この人、隠キャすぎる…)
10年も練習しているのにデビューできていない彼に、私の未来を託すなんて。——社長に期待されていないのかもしれない。そう思った。

だがその直後、すぐに気づかされる。彼の本当の凄さに。

大和はリュックからノートパソコンを取り出すと、迷いのない手つきで操作を始めた。

「それ、私のデビュー曲?」
「は、はい」
「どんな曲?」

口ごもるかと思いきや、大和の目が一瞬だけ鋭く光った。
「愛さんは、オーディション番組を拝見する限り、パワフルなボーカルが最大の魅力です。だから洋楽的な要素を入れて、ラップを組み込みました。女性ソロでラップを入れる人は少ないので、強いインパクトを残せるはずです」

「大和くん、めっちゃ喋るじゃん!」
「こ、これは…仕事なので」
「仕事だと喋れるんだ」
「当たり前です。プ、プロなので」

思わず笑ってしまった。
「ふふふ。おもしろいね、大和くん」

イヤホンを受け取り、愛は曲を聴いた。

——その瞬間、時が止まった。

初めて聴くのに、どこか懐かしい。胸の奥がじんわり熱くなり、涙が込み上げてくる。

「な、泣ける…なんでこんなに泣けるんだろう」

気づけば大和の肩を両手でつかみ、叫んでいた。
「大和くん!すごいよ!天才だよ!天才すぎる!」

真っ赤になって慌てる大和。
「わ、わかったから。もうわかったって」

それでも小さな声で呟く。
「…俺も、自分に自信がなくなってたけど。少し、自信がついた。ありがとう」

「違うよ。こちらこそありがとう。大和くんの曲なら絶対売れる。ねぇ、ずっと私の曲を作ってよ。約束だよ」
「…うん」

——そこから始まった快進撃は、まさに奇跡だった。
デビュー曲は100万枚を突破し、YouTube再生回数は1億回を超えた。
翌年には新人賞、さらにその次の年には最優秀アーティスト賞。

私は華々しく駆け上がっていった。

だが、デビュー3年目の年。
運命は、大きく狂い始める——。
< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。

総文字数/38,551

恋愛(ラブコメ)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「お前ら、本当に仲いいよな」 そう言われるたび、私は全力で否定する。 「は!? どこが!?」 私――瀬名美緒には、昔から大嫌いな男がいる。 兄・玲央の親友、朝比奈悠。 幼い頃からずっと一緒。 研究生時代も、同じ夢を追いかけた仲間。 ……なのに、こいつは本当に空気が読めない。 「美緒、怒ってる?」 「怒ってない」 「お腹減ってるんでしょ?」 「違う!」 「ほら、好きなガム」 「いらない!!」 そんな悠は、今や誰もが知る国民的アイドル。 一方の私は、地元の小さなアイドルグループで活動中。 音楽番組で共演すれば、女性アイドルに囲まれている悠を見て、なぜかイライラする。 「紹介してよ」 「……別にいいし」 「美緒、なんで怒ってるの?」 「怒ってないってば!」 国民的アイドルになったって、私にとっては昔と何も変わらない。 大嫌いで、ムカついて、顔を見ると喧嘩ばかり。 ……そう思っていた。 ある日、兄がかつて所属していた人気グループと音楽番組で共演することになった。 そこで、メンバーの一人から突然言われた。 「お兄ちゃんの件、ごめんな」 「……え?」 「あ……知らなかったんだ。ごめん。今の聞かなかったことにして」 兄・玲央が人気絶頂の中、突然アイドルを辞めた理由。 そして、かつて兄の一番の親友だった悠と、兄が疎遠になった理由。 私は何も知らなかった。 いや――知らされていなかった。 「悠。お兄ちゃんに何があったの?」 「知らない」 「嘘でしょ」 「……俺ら、もう疎遠なんだよ」 そう言った悠の顔は、いつもののんびりしたものとは違っていた。 大嫌いだったはずの兄の親友。 ずっと近くにいたのに、私は何も知らなかった。 そして気づけば―― 私は、誰よりも近くにいるはずの彼を、今までとは違う目で見るようになっていた。 大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。 笑って、喧嘩して、すれ違って。 それでも、いつも一番近くにいた。 これは、国民的アイドルと売れないアイドルの、ちょっと騒がしくて、少し切ない恋の物語。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop