ワケありニートな年下ワンコを飼いました
女は度胸
 ガクくんの母親は、とても活発な人だったらしい。学校で嫌なことがあって落ち込んで帰ってくると、いつも外に連れ出してくれたそう。

 特に思い出に残っているのが、スケート。元気がないときは体を動かすのが一番だからと言って、冬になるとよく滑りに行っていたのだと、ガクくんは笑いながら教えてくれた。

「あのとき、彩女さんが訊いてきたでしょ。どうしてスケートに来たのか。元気がないときはスケートっていうのが、頭に刷り込まれていたからなんですよ」

 やっぱり家族との思い出があったからなんだ。なんとなく、そうじゃないかと思っていた。

「だけど答えをはぐらかして、実は後悔していました。彩女さんには、すべて知ってほしかったのに。とっさに本音を隠す癖がついちゃって……」

 そんな癖がついてしまった背景を想像すると、胸が痛む。きっと、自分の想いを口にすると、家族がバラバラになってしまうと思ったから……。

 実の母親のことは恨んでいない。どこかで誰かと幸せに暮らしているなら、それでいい。少し寂しそうな顔で、ガクくんはそう言っていた。

 恨んでいないのは本当だと思う。だけど、複雑な感情は、ずっと抱えたままなんじゃないかな。

 自分が求めても得られなかった親からの愛情を、弟と妹は当たり前のように受けて育っている。同じ家でその光景を目の当たりにするのは、とても辛かったはず。
< 191 / 278 >

この作品をシェア

pagetop