nonsense magic

4 彼女








''周りのやつらを信用するな''


───────あの言葉の''真意''を、ずっと考えている




「……どっか出かけんの?」

「っ!」


背後からかけられたかすれ声に、''彼''はたった今起きたのだと悟る。

鏡越し。仄かにゆるめられた瞳と目が合う、……なんだか後ろめたい気持ちに襲われて、そっと視線をそらした。


「おはよう、きりくん」

「……おはよ」


ゆるいスウェットに身を包んだきりくんが、くわ、と眠そうに欠伸をこぼすから、つられるようにわたしも表情を緩ませる。


眠りが足りないと言わんばかりに下げられた目尻に、ところどころ跳ねた猫っ毛。
……すっかり慣れてしまった、朝の光景。


「朝ごはん用意できてるよ」

「……味噌汁、あさり?」

「、はずれ。しじみです」


きりくんの好物であるお味噌汁の具を考えるのが、最近のひそかな楽しみになっている。もっとバリエーション増やしてみるのもいいな、……と、それは一旦置いておいて。


「夕方くらいまでには、帰るね」


アイロンで整えた前髪を鏡でチェックして、くるりと背を向けようとすると。ぎゅ、と後ろから伸びてきた手に腕を掴まれて、きりくんと正面に向き合うような体勢になる。


……きりくん?


「おれの質問の答えは?」

「……?」

「どっか出かけんの、って聞いたろ」


きりくんはわたしの全身に視線を落として、ぱち、ぱち、と瞬きをこぼす。声色はいつもと変わらないのに、なぜか咎められているような気持ちになって、あわてて口を開く。



「ちょっと買い物、に。電車で、隣駅のショッピングーモールに行こうかなって。……あ、きりくん何か必要なものとかあったら買ってくるよ……?」



急かされている訳でもないのに、自然と速まる口調。


言葉を紡ぐ度に、きりくんの無表情度が増していく。すう、と静かに細められる瞳に、すこし萎縮してしまう。



< 71 / 159 >

この作品をシェア

pagetop