Phantom


 聖はおれからの問いかけに、少し間を置いてから言った。


「そういえば、今日のゼミでは見なかったな」

「……そうか」

「ていうか、そんなこと、夢見さん本人に聞いたら良いんじゃない? 仲良いんでしょ?」


 彼の発言はごもっともだ。あまりにも正論すぎて、なんとなく居心地が悪くなる。

 昨晩の感触を、身体はまだ覚えていた。彼女と繋がった夜、うだるくらいの熱さに呑まれたあの時に感じた快楽は、これまで体験してきた行為の中で一番きもちよかったのに、一番虚しかった。

 返事をせずに黙っていると、聖が言葉を続けた。彼はこう見えて、沈黙を嫌う人だ。


「でも、珍しいねえ。夢見さんって、けっこう出席率高いし」

「まあ、だよな」

「うん。……あ、電車来る」


 風を切る車体が轟音とともにホームに流れ入る。

 結局問題は解決しないまま。睡との関係はこじれたままだ。なんとかしなければ、と思い、もう一度スマホの画面に触れる。

 やっと踏ん切りがついて、睡にメッセージを送った。結局、謝罪でも何でもなく、〈見たら連絡して〉とぶっきらぼうに送信したそれで妥協した。

 だが、夜になっても睡からの返信は来なかった。



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