Phantom
翌日、はじめて摂取した睡眠薬のせいか、起きてもなお、頭がぼうっとしていた。だが弱音を吐いている暇などない。おれは睡に届ける荷物を抱えて病院に行った。
そして、呆気ないほどにさらりと、奇跡が伝えられる。
「夢見さん、意識が戻ったみたいです」
受付の看護師が、笑顔をぺったりと貼り付けた。あまりにも軽い口調でそんなことを言われたものだから、思わずたじろいでしまう。
どうやらこのまま、面会ができるらしい。若い看護師は、おれがこのまま面会に行くのがさも当たり前といったふうに、病室への案内を始めた。
睡の意識が戻って、うれしい、と思う反面、おそろしい、と感じる自分がいる。
彼女はまた死ねなかった。今度こそ睡は、自分を追い詰めたおれを、そして死にたい自分を救ったおれを恨むだろう。
彼女はおれを見たら、どんな顔をするだろう。彼女と話したい、とは思ってはいたものの、いざこうやってそのタイミングが来ると、どうすればいいのかわからなくなる。
「看護師さん、あの」
「はい。どうされました?」
「……いえ、なんでもないです」
帰ります、の5文字が言えなかった。言えるわけがなかった。おれは、睡の気持ちよりも、自分が睡に会いたい気持ちを優先する、卑怯な男だ。だけど、それでも彼女がすきだから、どうしようもない。