Phantom
おれはそのうち2粒の錠剤をシートから押し出し、口の中に放り込んだ。錠剤の苦味が口の中に広がっていく。
それを、奥歯で噛み砕く。何度も、何度も噛み締めた。そうすると、砕かれた欠片は砂のようにさらさらと流れていく。
睡にこの薬を口移ししたとき、もっと丁寧に噛み砕いてあげればよかった。そのほうが不幸を飲み込みやすいだろうから。
おれは過ぎたことを後悔する悪癖を治せそうにない。
「……不幸でいいから、隣にいてほしかった」
唾液に混じった薬を飲み込む。彼女はこうやって、不安ごと抱いて夢の中に沈んでいたのだろうか。
「零、もう許して」
おれは傲慢だ。零の呪いに怯えて、許しを請い、次こそは、次こそはと、自分を奮い立たせても結局何もできないままだ。
苦味が睡眠薬の余韻として舌にこびりつく。
そうか。彼女は、薬を飲めば眠ることができると、そんな安心感を買っていたのか。そんな当たり前のことに今更気がつく。
明日は朝一番で病院に行こう。睡のそばにいよう。できることなら、会話をしたい。彼女と、真っ向から話したい。だから、今日はおれも彼女も眠っているべきだ。
ゆるく時間が進むにつれて、自然に意識が微睡んでくる。硬い床に横たわると、すこしだけ、睡の気持ちがわかったような気がした。