この愛には気づけない

10  おせっかいな性格 ④

「あ、あの、わたしが悪いんです。だから、全部やらなくちゃいけなくて……」
「……あなた一人でやらないといけないなんて、意味がわからないんだけど」

 彼女一人に任せきりにしている人たちに、いら立ちを覚えたからか、どうも怖い顔になっていたらしく、中野さんは目に涙を浮かべて謝る。

「申し訳ございません! 私の仕事が遅いんです!」
「私に謝らなくてもいいわよ」

 部署は違えど、彼女は後輩に当たるから敬語を使っていない。私自身はそんなつもりはないのだけど、言い方がキツく聞こえるらしい。

 いじめていると部長たちに思われても困るので、哲平にさりげなく目をやると、立ち上がって近づいてくる。

「仕事って、何が残ってんの?」
「あ……、えっと、その、あの、大丈夫です!」

 哲平に話しかけられた中野さんは何度も首を横に振った。人に頼みにくい気持ちはわかる。だけど、一人で背負いこむ必要もない。


「大丈夫じゃなさそうだから、私は声をかけたんだけど?」
「……申し訳ございません。あの、本当に大丈夫ですから」

 人の机の上をジロジロと見るのは良くない。しかも、同じ会社とはいえ別部署だ。
 でも、処理済みの箱に入っている書類が、今にも崩れ落ちそうなので、見て見ぬふりもできない。私はため息を吐いて言う。

「これって片付けるだけで良いの?」
「え……、あ、はい」
「どこにどう片付けたら良いか教えてくれない?」
「あ……、え?」

 困惑している中野さんの代わりに哲平が答える。

「俺、書類を片付ける場所や、やり方を知ってるから教えるわ。結構溜まってるみたいだし、遠空さんも一緒に片付けてくれると有り難い。中野さん、気づくのが遅くなってごめんな」
「とんでもないです!」

 中野さんは、また何度も首を横に振った。

 はっきり言って、私も忙しい。忙しいから休日出勤しているのだ。

 でも、中野さんの顔色は悪いし、処理前の箱も書類で山積みだ。私のほうは、数時間頑張ればなんとかなる。

 片付けるだけで良いものでも横に置かれているよりかは、中野さんの気持ち的にも楽だろう。

 自己満足かもしれないけど、そう思い、部長に声をかけて書類を片付けることに決めると、後から部長も手伝ってくれることになった。


 
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